アラスカ州キナイ半島 サイクリングレポート #2

アラスカの春の雨

初日のキャンプは雨がテントのフライを打つ音で夜中に目が覚めた。テントから出る気になれず寝袋にくるまっていると、雨の音は弱くなり雪に変わったことが分かった。アラスカとは言え春なので昼間は確かに暖かいが、明け方はまだ十分寒い。雨や雪が降るとは聞いていなかったが、天気予報が変わったようだ。さっそく最新の天気予報を調べたいところだが、アラスカで最もカバレッジが高いといわれるAT&TのSIMカードを差し込んだiPhoneはここでは圏外である。Verizonが5G商用化を始めた陰で、アメリカには主要道沿いですら圏外の場所がまだまだたくさんあるのだ。

雨の様子で今日の行程を決めたいが、インターネットなしで天気を読む能力はなく、ここで迷うことに何も合理性はない。意を決して目の前の雨が弱くなったタイミングでテントを片付け出発することにした。まずは携帯電話が使える場所まで行きたい。オフラインで見れるように、あらかじめmaps.meでDLしておいた地図によると、しばらく先の山の中にレストランがある。レストランがあればご飯が食べれるし、携帯電話が使えるであろう、と考えまずはそこへ行ってみることにした。

雨の中ろくに休憩をとる気にもならず、黙々と自転車を漕いで着いたレストランは、けっきょく営業していなかった。#1でも語ったように、この時期のアラスカはシーズン直前で、レストラン等の営業はマチマチだ。しかし開店準備のためか幸い無人ではなく、これが100km単位で歩行者を見かけないアラスカではそれだけでも心強かった。営業前のレストランも建物の形だけはあるので、雨宿りしながら昼食をとることができたし、予想通り携帯電話を使うこともできた。事実だけ言えば軒先でご飯を食べながら携帯電話が使えたに過ぎないけど、これがとても嬉しかった。

この日はもう走る気にもキャンプする気にもならず、Cooper Landingという名前のついた、近くの集落のモーテルを探して電話で予約した。近くの集落といってもここはアラスカなので50km先だ。ツーリング中の雨は足取りが重いものだけど、宿に泊まることが決まっていれば、シャワーと洗濯が約束されているため、気持ち的には強気でいられる。そのまま休むこともなく自転車を漕いで、駆け込むようにモーテルへチェックインした。

Cooper Landing

モーテルに着くと30代くらいの白人女性が快活な接客で迎えてくれた。アメリカ人は平均的に愛想がいい。さらにチップの文化のせいかアメリカの客商売の人間は愛想がいい。最終的に愛想のいい部類のアメリカ人が客商売に関わると、二重にも三重にも愛想がいいことになり、ちょっとこっちが疲れてしまうくらい愛想がいい。

このモーテルは宿泊施設だけでなく、カフェ、バー、ガソリンスタンド、売店を備えていて、この集落ではハブ的な役割を果たしていた。自分たちが住んでる場所に比べたら何もないに等しいけど、こんな森の中にずっといると確かに相対的には何でもあり頼もしい。夜は他に行くところがないというのが事実かもしれないけど、バーは特に繁盛していた。

Cooper Landingはごく小さな集落だ。2010年の人口はわずか289人となっている1)https://en.m.wikipedia.org/wiki/Cooper_Landing,_Alaska。もともとは探鉱者によって作られた町だが、今は外遊びのベースとしての機能くらいを残した、小さく質素なリゾート地だ。キャンプ場、モーテル、レストラン、グロサリーのみで構成されている。ここまで極端に小規模なものは珍しいけど、このような集落がキナイ半島には多い。セオリー通りCooper Landingに連泊して、荷物を置いて周辺をサイクリングした。


References   [ + ]

1. https://en.m.wikipedia.org/wiki/Cooper_Landing,_Alaska