冬の夏沢峠越えパスハンティング

夏沢峠は長野県の茅野市から南牧村にまたがる標高2,430mの峠だ。南北に広がる火山列である八ヶ岳の中心にあり、この夏沢峠を境に北八ヶ岳と南八ヶ岳に分かれる。

針ノ木峠、雁坂峠と共に日本三大峠にも数えられることがある。これは歴史が古く標高が高い3つの峠をまとめた名前らしい。ただ誰が言い始めたのか分からないがいい加減な定義で、この夏沢峠ではなく三伏峠とする説もあり定まっていないようだ。日本三大峠について調べると、どこを見ても夏沢峠と三伏峠両方の意見がある。少し調べてみたが一次情報が追跡できそうにないので、調べるのを諦めた。夏沢峠に関して言えば、少なくとも江戸時代には諏訪から夏沢峠と十文字峠をこえて、秩父の方へ人の往来があった。

今回のルートは以下の通りだ。まずは茅野市から桜平の林道入り口まで舗装路でアプローチする。そのあとは夏沢鉱泉まではグラベルのダブルトラックとなる。その後、オーレン小屋を越えて夏沢峠に到達。その後、日本最高所の露天風呂の本沢温泉を越えて、長野県道480号経由で松原湖まで下り人里に降りる。

以下、軽いテキストと写真で簡単なレポートをお伝えする。


茅野市からはしばらくドライな舗装路が続く。林道入口の目と鼻の先だが積雪はない。

唐沢鉱泉・桜平分岐からは林道が始まる。グラベルとなるが雪のため影響はない。この先に登山客向けの駐車場があるため一般車の往来もあり、しっかり圧雪されておりまだまだ乗れる。

唐沢鉱泉・桜平分岐
フォーク横にマウントされたワカン。
除雪も行き届き程よく圧雪されたスノーライドに気持ちのいい道。

桜平駐車場からは足元が怪しくなってきたのでゲイターを装着した。一般車両はここまでしか来ないので車の往来が少なくなるためだ。靴は冬用登山靴ではなく、夏用ブーツかスノーブーツがいい。

ゲイター装着。

駐車場を越えると他の登山客も見かけるようになった。当然他に自転車を持っている人はいないので、めちゃくちゃいじられることになる。「お兄さんどこまで行くの!?」「なんで自転車持ってるの!?」というやりとりがFAQの作成を検討してしまうほどに繰り返された。

ツアー客

桜平駐車場からは圧雪が甘くなったが、この先に営業中の夏沢鉱泉があり車の往来があるので、まだまだ乗れる部分もある。

今のところまだ担ぐ必要はなく、平地と降りは乗車して登りは押すことを繰り返すと、夏沢鉱泉という営業中の山小屋に到達した。ここで登山届が出せるので出していない人はここで作成するとよい。また暖かくトイレもきれいなので、ここから先の行程に備えて出すものは出しておこう。ここまではダブルトラックで乗車または押しで来れたが、ここから本格的なトレイルが始まる。ここで軽アイゼンを装着した。

夏沢鉱泉に到着。
登山届をここで提出した。
暖炉があり温かい。
ここで軽アイゼンを装着。

ここからは本格的なトレイルのため担ぎが必要になる。こうやって必要に応じて悪路も走り、場合によって担ぎも交えながら峠を越えるスタイルは、いわゆるパスハンティングとか山サイ (山岳サイクリング) と呼ばれる。自転車を担ぐというのは意味もなく力自慢でやっていると思われていることがあるが、これは解像度の低い認識に基づいたありがちな誤解だ。けっきょく目的としているのはツーリングとして道をつなぐことで、そのために自転車と徒歩の両方の選択肢を切り替えているだけなのである。山スキーでずっと滑っているわけではないのと同じことだ。

ダブルトラック区間は乗車または押しでいけたが、トレイルからは基本担ぎ。
オーレン小屋着。冬季休業。

自転車を担ぐといえばよく想像されるのはシクロクロス担ぎかもしれないが、前三角に首を突っ込む持ち方が実はバランスがいい。筆者はできないが慣れると手放しで歩くことができる。

自転車を手放しで担いだままゲイターをなおす。
他の登山客も多く、トレースがしっかりしていて快適。

程なくして夏沢峠到達した。Garminのログがうまく録れていなかったが、たしか2時間くらい歩いたか。

夏沢峠からの景色。
夏沢峠のヒュッテ。

夏沢峠で一休みして、次は本沢温泉を目指して下り始める。東の茅野側は自分たちの背丈と同じくらいの高さの針葉樹の葉をかき分けながら進んでいたが、西の南牧村側は全体的に背の高い木が多くなり、見通しがよく歩きやすい。下りなのも相まってスピードが出る。

本沢温泉を目指す。
かなり見通しが良い。
冬のシャクナゲ
硫化水素の匂いがしてきた。もうすぐ本沢温泉。
崖の下に本沢温泉の野天風呂がある。写真を撮ろうと思ったけど人が入ってたのでやめた。

本沢温泉到着。有名なのでほとんど説明不要とは思うが、日本で最も標高高い露天風呂がある山小屋だ。ちなみに日本最高の温泉はここより更に300mほど高い、標高2,410mのみくりが池温泉らしいが、ここは内湯なので野天として一番高いのは本沢温泉になる。今回は入浴しなかったが2日かけて夏沢峠をのんびり越えるなら、ここで一泊して温泉に入ると良いと思う。

本沢温泉に到着。
日本最高所野天風呂

本沢温泉は今回は通過地点なので、一息ついたらさっさと松原湖まで下る。ここからはダブルトラックなので、例年の傾向では路面はよくなりペースが上がる想定だった。上手く行けば乗車もできるだろうと考えていた。しかし読みが外れ、ここまでは6本爪アイゼンで来れたが、むしろワカンが必要になるほど路面は悪化してペースは落ちた。

RIDEALIVE2017 “TOE to TOP”より引用。夏の本沢温泉からゲートまでの様子。
このような広い道で下りでもあるので、茅野側の 唐沢鉱泉・桜平分岐から夏沢鉱泉までと同様に、少なくとも担ぐ必要はなく上手く行けば乗れるだろうと考えていた。

理由は2つある。1つは全国的に例年より雪が多かったことだろう。そしてもう1つの理由は、本沢温泉まではしっかりしていたトレースがほとんどなくなったことだ。ここから先は登山客が皆無らしい。

本沢温泉から松原湖まで下る。
ワカン脱着。
ワカン装着
明らかに茅野側よりトレースが甘く、ちょっと気を抜いたら落ちるかも?という気持ちになってきた。
夏沢峠から松原湖までの地図。

よく分からないが、下れば下るほど雪が深くなってきた。しかも日も暮れてきてしまった。明るいうちには少なくとも幹線道路には降りれると思っていたが全く読みが外れた。

日没までに下山できないとテンションが下がるのはもちろん、安全上の問題がある。困ったが、とはいえここまで来てしまったらこのまま進むのが最も安全なので、そのまま進むしかない。

腰までラッセル。ISOは上がりシャッタースピードが長くなり始めた。
膝までラッセル

ゲートを越えてやっと車道に降りることができたが、全く除雪されておらずまだ数十cm積雪があった。。車道まで来れば流石に乗れるだろう…と考えていたがそれすら難しい状況だ。何故か通行止めにはなってなかったが、こんな雪では除雪車や戦車くらいしか来れないので、事実上の通行止めだ。ここで照明が必要になったが、登山道を日没までに抜けるというクライテリアはギリギリ達成された。

もはや写真が撮れない
車止めがほとんど埋まるレベルの積雪。50cmくらいか。通行止めではない道路でこんなに積もるものか。