岡山に行って自転車に乗って四手網小屋で魚を獲って食べる

岡山県岡山市の児島湾沿いの四手網小屋に泊まってきた。ここでは四手網という網を使って魚を獲りながら、その場で調理して食べて泊まることができる。こんな説明では四手網小屋についてはよく分からないと思うが、まずはそこは謎のままにしておいてこの記事を読み進めてほしい。


今回メンバーは筆者とジンノの2人。四手網小屋をやるにはもう数人ほしいところだが、筆者の交友関係の中では、わざわざ岡山まで魚を獲りに行くことに興味を持てる人材を確保することができなかった。こういうときに二つ返事で来れる友達をいっぱい作っておかないといけないなと思った。ちなみにジンノは高校の後輩らしい。学生時代に接点がないので実感はない。

岡山に昼ごろ到着しまずは昼食を食べる。旅行に来たんだからローカルチェーンに行きたいという筆者希望により、昼食はミスターバーグという聞いたことのないチェーン店に来た。店構えはかなりオールドスクールなカジュアル系ステーキハウス。しかし主力メニューは大豆ハンバーグと加工肉のステーキという健康路線で、店の雰囲気からはかなり乖離がある。

野菜の量もすごい、完全に客を健康にさせにきている。油が飛び跳ねすぎてすでに割り箸がギトギトである。

初めての店では看板メニューや一番人気を機械的に選ぶという自分の中のルールに従い、大豆ハンバーグを選んだ。大豆というだけあってヘルシー。肉の旨みや脂気に欠けるしハンバーグに求められる暴力性はないが、優しい美味しさはあった。家や会社のそばにあったら平日に行くかもしれないくらい。ハレとケで言えば完全にケ。バーガーキングではなくサブウェイに近い位置付けになると思う。ジンノは普通にラムステーキを選んでいた。正直そっちが良かったけど、先述のルールは好みよりも優先されるので、今回は選ぶことができなかった。

ハンバーグの提供はさわやかスタイル。鉄板の上で焼かれながらキッチンを出て、ホールの間を縫って運ばれてくる。この鉄板、油ハネがすごい。「よければ紙エプロンお使いください」と控えめに勧められたが、紙エプロンが一瞬で油でベタベタになったので、使わない選択肢は結果から言えば考えられない。思い出してみれば、店に入った瞬間から床がネチネチしていることが気になっていたが、鉄板からハネた油のせいではないか。

紙エプロンに跳ねる異常な量の油の飛沫

ビールはサイズが複数あるが、メニューのレイアウト的にはこの店では1Lが普通のサイズらしい。あとグラス→中ジョッキの次が1Lというグラデーションの粗さもすごい。大ジョッキはないのか。

ミスターバーグを後にしてライドの出発地点に向かった。ライドだけであるがここで地元岡山の知人と合流した。なんとなく岡山駅あたりまで輪行して、そこから買い出しをしつつ瀬戸内海や岡山の名所をのんびり回って四手網小屋に向かう想定をしていた。しかしアテンドしてくれた地元ライダーが完全に自転車競技部出身の若者で、筆者の想定とは違い普通にロードバイク乗る日みたいな感じのライドだった。ゆるいと聞いていたのでツーリングみたいな服装で行ってしまったが、完全に場違いであった。申し訳ない。

ちなみに岡山の地元民としても四手網は知ってはいるがそう行くものでもないらしい。名古屋で言うと名古屋城みたいな感じかもしれない。知ってるし近くにあるけどいつでも行けるがゆえに一生いかないような。

引いてくれたルートは牛窓という自分にとっては聞いたこと場所だったが、瀬戸内海らしい海辺の町で、文脈によってはインスタ映え (死語) とも解釈できるような場所だった。今回、四手網小屋も含めて行程全体を通して感じたが、岡山は自分が思っている以上に海の街だった。名古屋や大阪にも港はあるが、やっぱり中心部とは隔たりがあって海を意識することはない。瀬戸内海というと小豆島やしまなみ海道を思い浮かべるけど、岡山もそう言えば瀬戸内海エリアだなあと改めて思った。大袈裟かもしれないけど、これはけっこう自分にとっては新しいパラダイムだった。

中光商店という牛窓では有名らしいお店で蒲鉾を食べた
牛窓にかつて存在した沈んだゴルフ場らしい
リスクに対する向き合い方が独特なことで有名な岡山の用水路。どう見ても危ない。死が怖くないのか。

ライドを終えてからスーパーに買い出しに向かった。買うのは飲み物、おやつ、魚以外の肉や野菜など、朝ごはん。分かっていたことだが買い物の量の調整が難しい。やっぱり魚が獲れないことが不安なので、その可能性を見越して食べ物はある程度揃えておきたい。が、その一方で魚がたくさん獲れてしまったときに、他の食べ物を買いすぎて食べきれないと悲しい。近くコンビニはないので少なめに買って、どうしてもお腹が空いたらコンビニに行くという回避策も簡単ではなさそうだった。

四手網に詳しければこの時期に大体どのくらい獲れるのか分かるだろうけど、未経験の我々はあまり考えても仕方がないので、最終的には余ったら頑張って食べる、食べきれなければ持ち帰る、という二つの可能性にかけて、多すぎる可能性は考慮せずに買い出しを済ませた。

アクアパッツァ用のニンニク。中国産ニンニク3玉で売られがちだけど多すぎるという問題意識が共有できてよかった
瀬戸内海っぽいものを…ということで一瞬候補に上がったけど買わなかった牡蠣醤油
鍋の素
飲み物はビールとキンミヤと爽健美茶にした。焼酎のお茶割りは酒が進んでも進まなくても柔軟に対応できるので応用が効く。

買い出しを済ませて四手網小屋に向かった。児島湾と陸地は堤防で分けられておりこの堤防沿いに同じような小屋が集積されている。場所はこの辺り。近くまで行っても似たような小屋がたくさんあって、結局Google Mapsでは具体的な場所がわからないので、近くまで行って小屋の管理者に電話するしかなかった。

左側に見える小屋の一つ一つが全て四手網小屋である

小屋の内部。家具や食器はある程度そろっているので、食べ物以外は手ぶらでよい。調味料、飲み物、洗剤は以前の利用者が残したものもある程度あった。筆者らは寝袋を持参したので使わなかったが布団もあった。

見なかったけどテレビもあった。アンテナは小屋の中にある。

キッチンはこんな感じ。棚にステッカーが貼ってあるところなども含めて実家感があった。料理はある程度なんでもできそう。

暖房はエアコンが設置されていたが小屋自体の断熱性が皆無でかなり頼りなかったので、加湿もかねて鍋を沸かした。これで更に上着を着てやっとちょうどいい室温になった。

設備を確認して感触を確かめていると、小屋の持ち主が現れた。人の良さそうな感じだが、正直あまり浮かない顔をしていた。というのも1月は時期としてはかなり悪いらしく、ぜんぜん獲れないんじゃないかとのこと。我々が名古屋と大阪からわざわざ来たということもあり気の毒に思ったらしい。本業は海苔漁師らしく可哀想に思ったのか海苔をたくさんもらった。

四手網の使い方も教えてくれた。電動のウィンチで網をあげたり下げたりするのみとのこと。魚が獲れる仕組みとしては餌や操作は問題ではなくライトの光が重要とのこと。ライトで照らされた光にプランクトンが集まってきて、そこに更に捕食者が集まってきて、最終的に人間が食べる魚が集まってくるというエコシステムを利用しているらしい。上げ下げそのものにコツはなく、基本網を鎮めてご飯を食べたりお酒を飲んだりしつつ、気が向いた時に上げればよいとのこと。

冬は時期が悪いというのもこの仕組みと関係していて、冬は水温が低くて魚の活動量が少ないので、獲れるかどうかが魚依存の四手網は冬が苦手、というのが理由らしい。

網を沈めているところ
網をあげたところ。これは魚がかかっていない状態。

もともと時期が悪いということは分かっていたし、次回へのフィードバックが得られればよく今日は魚が獲れなくてもいいというつもりで来ていたので、小屋のおじさんの話を聞いても特に残念ということはなく、気にせず四手網を試してみることにした…という無欲さがよかったのか、魚は結構いきなりかかった。

魚がかかったらタモで掬いとる。

スズキだ。

いきなり2匹かかった。このザルや箱も小屋にある。

すぐに血抜きする

鱗を落とす、これも小屋に置いてあるので持参不要だった

さばく。包丁とまな板も小屋にあった。

最初のスズキは刺身になった。このスピード感で捌いた刺身なので言うまでもなく美味しい。この時はまだこれが1ヒット目で、たまたま運が良かったのか、この後もこれが続くのかがわからなかったので、一部のスズキは鍋用に分けておいた。

続いてボラの群れが当たった。正直、魚なんて獲れないと言うつもりでやっていたので、感情が受け止めきれない。あまりに獲れてしまったし、この時はまだボラが美味しいと言う確信もなかったので、ほとんど逃してしまった。

これにはジンノも嬉しそう。

ボラの顔よく知らなかったのでこんな感じなんだって思った。

ボラの食べ方をよく知らなかったが臭いと有名なことは知っていたので、ダメもとで刺身にしてみることにした。結果的には美味しかった。臭いといえば臭みもあるかもしれないけど風味の範疇。むしろスズキより食べ応えがあって美味しいと感じた。ボラが臭くなる原因はやはり水質みたなので児島湾の環境がいいのかもしれない。あと内臓からの臭いうつりも原因なので、今回のように鮮度が良いのも重要かもしれない。

メインの鍋に移行。どんな魚が獲れても何とでもなりそうと言うのと、魚以外の肉や野菜との共存が可能、米や麺類の投入も可能という理由で、四手網において鍋は採用の価値がある。しかし柔軟さに富むが刺身やこの後に出てくる揚げ物と比べると、魚の新鮮さを感じにくい選択だったかもしれない。食事のベースとしては安心感があるが、尖ったおいしさのある刺身などと組み合わせてメニューを組むと良いかもしれない。全ての食材がコントロール可能な普通の宅飲みと違って、四手網小屋ならではの戦略がある気がした。

鍋を食べて落ち着いたところ再びスズキがかかるようになった。このタイミングで揚げ物に切り替えていくことにした。けっきょくこの日はスズキだけは継続して網にかかっていた。

今回はビアフリットにした。ビールに小麦粉を混ぜて衣を作って揚げる。ビールに小麦粉を溶くだけなので作るのは簡単だがビールの炭酸で衣に厚みがあって美味しい。ビールもどうせ飲むものなのでわざわざ用意する必要はないし、四手網小屋のユースケースに完全にハマっている。

獲れたてのスズキを使ったビアフリットは本当に美味しかった。新鮮な魚なので刺身にしたくなるところを揚げ物にしてしまうのは贅沢な感じがするけど、こうやって作った揚げ物でしか出せない味だった。食べ慣れてる味からの振れ幅と言う意味だと、刺身より揚げ物の方がアドバンテージ出せていたと思う。

小魚はもっと獲れると思っていたが、結果ぜんぜん獲れなかった。カタクチイワシ?とハゼが1匹ずつとれた。両方揚げ物にした。

深夜から朝にかけてはぜんぜんかからなくなった。水温が低いと魚がおとなしくなると聞いていたので、多分そのためだろう。網はあまり遅くなる前にたくさん使っておいたほうがよさそう。

朝になったらモクズガニがかかっていた。この日の唯一の魚以外の収穫となった。ただ食べ方としては味噌汁になるっぽくて、今回味噌の用意がなかったので逃した。


四手網小屋に泊まってみよう

九蟠漁協のWebサイトに小屋の連絡先がまとまっているので電話をかけて予約すること。

使ってみて分かったこと

  • 調理器具や冷蔵庫やコンロなどはある。泊まるとしても布団もある。食べ物以外は手ぶらで大丈夫。
  • ホテルみたいに都度清掃しているわけではなさそう。