子育てと自転車。趣味との両立

歩くなり、走るなり、動物は移動によって多くの刺激を知覚します。自転車という道具はその刺激をさらにブーストし、目くるめく体験を我々に 提供してくれる。日々、新たな知覚を得ていく子供にとっては、それは相当な刺激的体験だったと想像するのです。

「ああ… そうそう。自転車ってヤバいよね。わかるわかる」

親愛なる父と母と同じく「自転車に乗れる」という到達感もあってか、子はペダルを漕ぎなら、満面の笑みで、時にはケタケタ笑いながら私たちと並走している。その様子をながめながら私は今、自転車という道具が人を惹きつける根っこの部分を再認識する、自転車愛好家としても感慨深い体験がありました。それは子の父としての私が、共にそこへ到達したことを含めた感慨です。「最高だな」と。

子育てと趣味と

人生の主役が自分ではなくなり、替わって主役の座につくのが生まれいでた我が子となる。育児5年目をむかえ、これが夫婦で深く納得している論となります。具体的にはお金と時間を使う先が自分らではなく、子へと向かう事が基本となりました。この状況おいては「自分のしたい事にお金と時間を使えない」とネガティブに捉えられる側面もありますが、意外にも「子と共有できないモノ、コトなら、まぁ、いっか」と、自然と欲求の舵が切れていくものでした。

そうはいっても幼児向け全開のオモチャ、知育玩具などを子と共にする際には、ナンダカナ感が生じるのが正直なところ。とたんに親としての使命感にさいなまれ、自分で自分の顔が曇っているのを感じます。よほど空きペットボトルで創意工夫する方が、私も子も気分を高めあえるというもの。なので私自身にとっても興味深く、それでいて子が中心となって楽しめる強度のモノを探し求める日々は、今なお続いています。

子と親がともに遊べることに、大きな学びと喜びがあると考えます。私が飲み干したペットボトルを子がうばい、叩いたり転がしたりでケタケタ笑う。飲料水の容器から、子のオモチャとなったそれを私も一緒になって楽しむ。子が1才になり、歩けるか歩けないかの時期から始まったこの様な遊び。それと同ベクトルで自転車整備で用いたレンチやタイヤレバー、プラモデル工作で使うニッパーやヤスリ、私が手にするそれらの道具を見ては「俺にもやらせろ、触らせろ」と子がまとわりついてきます。

そんな日々のなかで「子が自転車に触れる」というのは自然な流れでした。なにせ私がスキさえあれば愛機に触れたり、乗って楽しむ姿を見ている事もあって、子も自転車に触りたくなるのは至極当然の事。そしてそれは子にとって親愛なる者の行動を「模倣する楽しさ」ゆえと考えます。「マネっこ、たのしい!」です。そう、一緒に遊ぶ、共に遊べるが楽しくて、行動を誘発するのです。

このような体験を得るには、場と道具は子供だましでない方が効果的である、という持論があります。そのため、幼児にとっては大怪我やトラブルが想定される整備や工作の場ですが、可能な限りあえて遠ざける事はしてきませんでした。いずれは子と共有したい、むしろ自ら手にしてもらいたいモノがその場だからこそあるので。その場で感じたモノを、工具的なオモチャで模倣したりしたのを経て、今ではニッパーでパーツを切り出しては「ボク、つかえるようになったんだよ」と誇らしげにプラモデルを手にしています。

保護者として彼の挑戦を見守り、多くのコトを感じ、学んでもらいたい。できないことをできるようになる感覚を得てもらうには、子供だましなモノやコトでは成せないのです。

この考えの背景には、保護者である私の都合も多分にあります。自分のやりたいことに、子を巻き込んでいるだけとも言えます。ただその一方で、子に背を向け、私自身で完結するのではなく、一緒にその場を楽しむための工夫に余念がなかったとも言えます。このように、保護者である親自身の機嫌をとる事、その為の工夫も必要なのです。

結果、自転車やプラモデル、合わせて付随するモノや工具が増えていった4年間でしたが、おかげで私も子も、ご機嫌な日々を過ごすことができました。

可能性の獣

今から15年ほど前の話です。私はバニーホップというスキルを獲得するのに4年を必要としました。何度も諦めそうになった4年間。そう、機材と環境が悪かった。その後、26”やBMXに触れてからというもの、スキル向上になかなかの時間を積み重ねる事となりました。結果、スタイルを得るまでには至りませんでしたが、自分の中の「可能性の獣」と向き合い、できることを増やしてきた経験は、仕事や趣味、人生感においても生かされています。壁ぶつかった際に「でも、それでも」と。

コロナ禍という状況も含めたこの4年間、自分は育児に向き合う時間がしっかりとありました。合わせて環境も。ただ、それがいつまで続くかの保証はまったくないので、この機会に「男親」として何が出来るかを考えたのです。子育てでは母親にしか果たせない役割が多くある中で、男親として何ができるかを。考えた結果「子が早々に自転車に乗れるようになる」という目標をたて、時間を積み重ねました。そう、スキルを獲得するには、ただただ回数を、時間を積み重ねるしかないのです。

子が自分で歩けるようになった頃、駐輪してある自転車のホイールを手にしては、それを回して遊び始めました。また、私が自転車イベントを主催していた名残りで置いてあったランニングバイクを見つけは、引きずりまわしたりも。これが彼にとっての自転車人生の始まりとも言えるでしょう。

その後、子は1才9ヶ月でキックバイクにまたがれる背丈にようやくなり、外で乗って遊べるように。

2才6ヶ月になった頃、同タイヤサイズの子供自転車を購入。まず、クランクやチェーンを外してキックバイクの延長線上で車体になれてもらい、その2ヶ月後にはペダルを回して走行できるようになりました。

ただ、子も自転車で公道に出始めるようになると、最初のうちは私や妻が隣を歩いて見守る事になります。その後、子の交通安全、ルールへの意識が身につきはじめ、なおかつブレーキ制動も確かになった頃、それは彼が4才の誕生日を向かえたのを機に、我々も自転車に乗っての並走が叶う事となりました。家族での初サイクリングは、子が自転車に乗れるようになったのとは別腹の、たいへん感慨深いものがありました。「最高だな」と。

そう、幼児期間中に「自転車に乗れるようになった!」という実績解除を得るというのは、けっこうな早熟っぷりと言えます。ただ、これは本人の先天的な才能ではなく、適性を活かした環境づくりと、スキル獲得にかけた時間があってこその話です。そして彼の成長に対して若干早いタイミングでの機材投入を意識し、実行しました。まずなによりも幼児用ヘルメット。そしてキックバイク、子供自転車の順で購入。総額6万円ほどの機材投入を適切なタイミングで実施した事により、子に自転車乗車スキルを、何よりも「スキルを得る体験」を与えることができたと考えます。

この目標達成を目指すうえで、私の子に対するスタンスは技能習得訓練的な、情操教育的なものではなく、あくまでも遊びの延長線上として取り組んできました。たとえば「今日はどうする? 自転車で遊ぶ? 虫を捕まえにいく?」くらいのカジュアルな投げかけで練習に誘うようにしていました。とはいえ大抵、私が自宅倉庫でBMXをさわったり、軽く乗ったりしているを見て「ボクも自転車で遊ぶ!」という流れになります。そう、前述した模倣する楽しさです。一緒に遊ぶです。

親が子へ、一方的に指導するとかはナンセンスだと考えます。彼には、子供たちには、自分の内に眠る可能性の獣と、どのように向き合うか? それをどう感じとれるか?  遊びのなかで多くの気付きを。その機会をどれだけ与えれるかが、親の使命のひとつなのかと。

モノでの環境づくり

育児においてはそれがあるかないかで戦力がダンチになるようなモノがあります。そこで今回の投稿の最後を「育児と自転車とモノ」で締めていきたいかと。モノやツール、機材に投資して解決。それは機材スポーツや自転車遊びの醍醐味のひとつです。

【Little Nutty | NUTCASE HELMET】

幼児用ヘルメット。何はともあれ、ヘルメットを買ってください。保護者として子の安心安全を確保… というのが確かに一番にありますが、我が子が3割増しで可愛くなります。近所の公園のジャングルジムや、浜のテトラポッドによじ登ったりと、自転車に乗る時以外もかぶらせています。おかげで「ヘルメット坊や」というキャラクター性を確立しました。このブランドの子供用自転車ヘルメットはカラーラインナップが豊富。幼児だからこそッ!のイラストものも豊富なので強く推せます。もちろん、安全性能やフィット感も確かなもの。

なお、ウチの子は脱着可能なツバを外すのにツボってしまい、延々と外そうとしてくるので早々にツバ無し仕様で使っています。

【Kickster | Trek Bikes】

さすが老舗スポーツ自転車ブランドのキックバイク!というところで購入。自転車をコントロールする事を楽しんでいた自分としては、某ランニングバイクには懐疑的なポイントが2つありました。それは「EVAポリマーのタイヤ」と「オフセット量ゼロのフロントフォーク」です。自分がこの仕様のバイクを乗ることを想像すると、恐ろしさしかありません。

加えて、後述の12”子供自転車に移植して調子良いパーツが、いくつかあったのもウレしさのひとつ。まず、クッション性が高くアスファルト走行に適した12”タイヤ。良くタイヤが転がっていく感があり、調子良さそうでした。それともうひとつ、小ぶりのサドルとシートポストのセット。これがあったからこそ、彼は早い段階で子供自転車にまたげる事ができました。子供自転車の純正シートポストでは、成長曲線における身長が常に下限値ギリだったウチの子は足が地面に届かず、長らく乗車が困難だったのです。

【YOTSUBA Zero 12 | ヨツバサイクル】

子供自転車の歴史において「ヨツバサイクル登場以前と以後」という転機を示せるプロダクトと言える傑作。ラインナップ上、最小であるこのヨツバゼロ12は幼児がキックバイクからの移行を前提に考えられた設計を基本とし、幼児の小さな手によってもしっかりと制動できるブレーキ、大人が乗っても使用に耐えるような高剛性のクランクまわり、そしてドライブトレイン。幼児の脚力でも坂道をのぼれるように設定された軽いギヤ比は、メーカーがマウンテンバイクの部品や用具を扱っている事に由来していると想像します。そして販売価格にもメーカーの思いを感じます。

「クランクやチェーンを外してキックバイクの延長線上で」と前述しましたが、それには専用工具が必要であったりと一般で対応できる作業ではありません。ですので、ヨツバサイクルを取り扱う自転車店に相談するのがベストです。

私も試験運用でお手伝いしたのですが、以下のリンク先に紹介されている様な提案もあります。より安全にクランクレスで走行できる様になるかと。ご参考ください。

>>キックチェンジャー / それは逆転の発想から生まれた。 | Circles/名古屋の自転車屋サークルズ

【Spyder DAZZ Lite | TIOGA 】

写真左が今回紹介するTIOGAの小型プラスチックペダル。そして右がヨツバゼロ12に付属していたペダル。このペダルに求めたのは薄さです。この2つを大人のサイズ感に照らし合わせて比較すると、なかなかの厚みの差となります。回転軸から子の足の裏までの距離をどれほどダイレクトにするかで、ペダリングや立ちこぎの感覚を得るきっかけになるのではと思い、投入しました。これはペダリングが出来てしまえばどうという事のない話なのですが、スキルを獲得するきっかけ作りとして試みてみました。また、乗車時のシューズをソールが薄いものにするのもひとつの手かもしれません。

以上が「子が早々に自転車に乗れるようになる」という目標に対して都合したモノとなります。参考になったならば幸いです。お子さんの年齢、身長によってはヨツバゼロ12の購入が第一歩でも構わないような気もします。

「子が自転車に乗れるようになる」と「子と一緒にサイクリングする」が、それぞれ叶った際の高まりは相当のモノでした。安直に「最高だな」と心底思えました。それに対しての投資額は、大変ささやかな金額だと私は考えます。


最後に。私には環境の優位性があったと言えます。仕事が自宅での自営業であったり、住まいが人口密度が低い漁村であったりと。私がもともとは都市部出身であり、そこで活動してきた経験上、市街地での自転車練習となるとハードルが高い状況が少なくないと想像できます。都市部においても良きローカル環境は間違いなくありますが、それを探し当てることも含めて苦労されるとは思います。

でも、それでも。どのような状況においても自転車愛好家らしい創意工夫が発揮され、皆さんにも「最高だな」が訪れることを切に祈り、この記事を締めさせてもらいます。

以上。

では、また。なにかの機会に。

付録: 成長履歴

0歳06ヶ月 歯のはえ始め
0歳10ヶ月 はいはい
0歳11ヶ月 離乳開始
1歳01ヶ月 歩き始め
1歳04ヶ月 自転車のホイールをさわりはじめる
1歳09ヶ月 ランニンバイクにまたげる様に/幼児用ヘルメット購入
1歳10ヶ月 言葉の出始め
1歳11ヶ月 キックバイク (Trek Bikes  Kickster) 購入
2歳03ヶ月 GONZO PARKをキックバイクで乗り始め
2歳06ヶ月 ヨツバサイクル「YOTSUBA Zero 12」購入
2歳08ヶ月 ベダルを回して自転車を乗り始め
4歳00ヶ月 公道で自転車乗り始め。家族での初サイクリング