ワークショップ中のアイーシャの姿

Quick Brown Foxの自転車通勤ワークショップ

全米で、そして世界で Black Lives Matter 運動が高まりをみせるなか、ロードレーサーのアイーシャ・マクゴウワンが初心者向けの自転車通勤ワークショップをFacebook Liveで行った。彼女がそこで伝えようとしたメッセージは “Bikes Are Freedom”(自転車は自由をもたらすもの)。その意味するところを紹介したい。

ワークショップの告知ツイート

有名な英語のパングラムが元ネタであろう “Quick Brown Fox” の異名をとるアイーシャは今年、かねてからの夢だったアフリカ系アメリカ人の女性で初めてのプロ自転車ロードレーサーになった。彼女は POC = ピープル・オブ・カラー(白人ではない、様々な肌の色の人々)の存在が忘れられがちな自転車業界で、そうしたあり方を変えていくための活動も行っている。

Nikeによって作成された2019年の動画 “Dream Crazier”

今回 (6月5日) の自転車通勤ワークショップも、POC の「自由」のためにアイーシャが実施を決めたものだ。そのことを記した彼女のブログ記事のタイトルは “Bikes Are Freedom“。文脈から切り離しても魅力的な言葉だが、ここではアフリカ系アメリカ人にとっての “freedom” という言葉の重みを考えて欲しい。

ゴスペル曲 Oh Freedom!(動画にはローザ・パークスの姿も)

アイーシャの自転車通勤ワークショップ自体は初心者向けの内容なので、このサイトの読者に詳しく紹介する必要はないだろう。 服装は危険でなければ別に何でもいい、とのアドバイスは素晴らしいなと感じた。ライブ配信があるのを教えてくれた友人は「この困難な状況下、ごく初心者むけに自転車通勤のノウハウを説明するワークショップを開いてること自体がすでに大きなエンパワーメントになってる」と言っていたが全くその通りだと思う。

ワークショップ中のアイーシャの姿
The Green Book をめくりながら話すアイーシャ

ワークショップ終盤でアイーシャは少しだけ、移動の自由、そして社会構造に組み込まれた差別について語ってくれた。途中で彼女が手に取った緑色の薄いペーパーバックはその名も the Green Book、正式には The Negro Motorist Green Book という、ジム・クロウ(人種隔離の諸法令)時代のガイドブックだ。遠出をするアフリカ系アメリカ人のために安全に食事や宿泊ができる場所の一覧を掲載したもので、1948年版のまえがき(=写真)の最後には「近い将来、きっとこのガイドを発行しなくてよくなる日が来ることだろう」と書かれている。

前掲のブログ記事でアイーシャは 、自転車がいかに自分の世界を広げてくれたかを振り返っている。白人が多いエリアの給料の良い職場で働けるようになった。車がなくても市外の映画館に行けるようになった。地下鉄の時刻表を気にすることなく、街のあちこちで色々な人と知り合うことができた。The Green Book の時代とは違うけれど、障壁はなくなってはいない。自由と移動手段と社会へのアクセスを、肌の色に関係なくみんなが手に入れられるようにしたい。ささやかな自転車ワークショップに彼女が込めたのは、こんな想いだったのだ。