自転車旅行者のためのコミュニティ Warmshowers

概要

Warmshowers.orgとは米国コロラド州を拠点とした、世界規模のサイクリングコミュニティである。日本のサイクリストの話題にのぼる事はほとんどないが、155,140メンバーが所属している (2020年6月2日現在)。orgのドメインを使っていることからも分かる通り、実態としては非営利法人だ。彼らのホームページには活動内容について下記の通り書かれている。

Warm Showersコミュニティーとは世界的な無料の自転車旅行者が互いにホスピタリティを交換するためのものです。WSLに登録して連絡先情報を提供し、自転車旅行者をもてなす意思のある人は、時おり彼らのホストとなり、彼らと話や飲み物を共有することでしょう。

https://ja.warmshowers.org/faq

ホスピタリティの交換という抽象的な言葉で、奥行きを持たせた表現がされている。機械翻訳的な日本語も相まって何を言っているか判然としないが、実態としては、旅行中のサイクリストの旅先でのホームステイ先を、インターネットを使って見つけることが主なユースケースとなっている。Warmshowersでは自転車旅行中の会員をゲスト、現在旅行中でないホームステイ先となる会員をホストと呼んでいる。

具体的な実現手段としてWebサービス、またはモバイルのネイティブアプリを活用している。ホストとゲストのマッチングは、具体的には下記のように進められる。

  1. ゲストを受け入れられるホストはプロフィールを受け入れ可能状態に設定
  2. ゲストは自分のルート上の受け入れ可能なホストを探してメッセージを送信
  3. ホストとゲストの個人間のやりとりにて日程などをすり合わせる

具体例として筆者は年に1度、短期の海外ツーリングを習慣的に行っているが、旅行中はゲストに設定しており、帰ってきたらホストに設定を戻す。もちろん「旅行中ではないがホストもできない」、という設定も可能だ。

Airbnbに似ていると感じた人もいると思うが、確かに実装はAirbnbに近い。違いとしては、金銭のやり取りは発生しない(規約違反でもある)ことと、ホストは多くの場合サイクリストで、しかも旅の知識があることだ。このように見返りを求めず、ギブ&ギブで社会を循環させる考え方を、ギフトエコノミーと言う。1)https://www.huffingtonpost.jp/yuma-nagasaki/gift-economy_b_9006480.html

アンカレッジでホームステイした時の写真。当時のホストが「今夜は友達と集まるから来なよ」と誘ってくれた。これはアラスカのサイクリストコミュニティの集まりで、全員自転車に乗ってる。この時のホストはWarmshowersで見つけたのではなく、自転車に乗っていたら「Warmshowersやってるから泊まりにほしい!」と向こうから声をかけられた。

Warmshowersに参加する理由

まずゲストにとっての理由を考える。言うまでもなくホテルに泊まることなく宿泊できる、と言う有形のメリットがある。それは読者もここまでの説明で推測できたと思う。ここでは無形のメリットを説明したい。

実際に自分で体験して実感したゲストのメリットとして、現地の人と深い人間関係を築きやすいという点がある。ゲストとホストはお互いにサイクリストであり、ツーリストであり、ギブ&ギブの考え方を肯定する考えを持っている、という複数の共通点がある。インターネットが発達して海外の情報や写真が簡単に得られる現代、旅の醍醐味として現地で得るオリジナルの一次情報の比重が大きくなっている(と筆者は考えている)。その観点ではWarmshowersのこの性質は有利にはたらく。

アンカレッジのKing Street Brewing Companyというブリュワーの社員の家にステイした次の日、職場を見学させてくれた。REIにいたら「Warmshowersやってるから泊まりに来たらいい」と声をかけられた。

ホストとしてWarmshowersに参加する理由は、ホストをすることそれ自体がモチベーションである。これはギフトエコノミーの考え方を前提としないと説明しにくい。

少し視野の広い話をすれば、Warmshowersでホストを務めることで世界のサイクリングコミュニティや、自国のサイクルツーリズムにコミットすることができる。日本人サイクリストとして、何かソーシャルグッドなことをしてみたいという人は、それをモチベーションにすることができるだろう。しまなみ海道の成功に代表されるように、色々な自治体がサイクルツーリズムに資金を注入しているが、並行してこのような有志の草の根の活動もあるのだ。

以前、我が家に泊まりにきたフランス人カップル。自転車メカニックのAlanと美容師のHélène。

Warmshowersに参加する方法

3つの参加方法がある。1つ目はツーリング中にゲストとして参加すること。2つ目はホストとしてツーリストを受け入れること。3つ目は寄付やボランティアとして運営に参加することである。2017年には$ 115,324の寄付を獲得している。2)https://apps.irs.gov/pub/epostcard/cor/461370418_201712_990EZ_2018073115554767.pdf(この金額は筆者の感覚でいえば、日本での知名度に反して多いと感じた)

どのような関わり方であっても、まずは会員登録することから始まる。Warmshowers.orgにアクセスすると、真っ先に登録ボタンが出てくるはずだ。この記事を読んで興味を持っていただいていれば、まずは登録から始めてほしい。最後に参加への不安を解消するための、想定質問集を用意した。まだハードルを感じている人は、目を通してほしい。

最後に

日本でのWarmshowersの発展を目指してこの記事を書いているが、まだ参加へのハードルが残る読者もいるだろう。そこで、想定質問集を作成した。ホームページにもFAQは用意されているが、それとは別に日本人、特にツーリング経験のない日本人が考えそうな観点でまとめてみた。

食事はホストが提供しないといけない?

必須ではない。ホストはプロフィールに提供可能なものを書くが、食事もオプショナルな要素の一つとなっている。ホストが食事を提供するとしても、ゲストとして泊まってきた経験上、単にいつも通りの食卓に混ぜてもらうという感じで、普通の家庭料理である。ツーリストの夕飯は粗食が多いので、それで文句を言う人は少ないだろう。ただし色々な国の人が参加しているコミュニティなので、ゲストにアレルギーがないか、宗教上食べれないものはないかは、必ず確認することを勧める。


カリフォルニアのGreenvilleのホストに振る舞ってもらった食事。
ホームブリューしたビールを振る舞ってもらった時の写真。

ベッドは提供しないといけない?

必須ではない。多くの場合ゲストは寝袋を持っているので、廊下で寝させても問題ない(ゲストの多くは日常的に野宿をしているので、それと比較したら十分快適である)。なんならガレージや庭にテントを張るスペースを与えるだけでも良い(特に街中であればテントを張る場所すらないので、多いに助けになる)。もちろん、寝袋を持っていないゲストがいる可能性はゼロでないが、プロフィールに提供できるものを書く欄があり、それがベッドなのか、 床なのか、庭なのか書くことができるので、そこでミスマッチを防ぐことができる。

ゲストとして泊まった時ホストにお礼をした方がいい?

金品のやり取りをするのは規約違反である。好意的なレビューを書いたり、後からメールを送ったりする程度が良いだろう。

狭い家だがホストできるか?

可能。であるが、そのような個別の条件はプロフィールに明記して、事前のメッセージでも伝えておいた方がよい。筆者の家に以前来たゲストは東京でワンルームのアパートでゲストと雑魚寝した話を嬉しそうに話していたので、ゲストが納得していれば問題ない。

大人でもゲストになっていい?

問題ない。多くの日本人が想像するよりも、自転車旅行者の平均年齢は高い。

References   [ + ]