アラスカ州キナイ半島 サイクリングレポート #1

アンカレッジ滞在

どんな国や地域にサイクリングに行っても、スタートはなるべく大きな街で1日は余分に滞在することが望ましい。これにはいくつか理由がある。1つ目は時差ボケの修正。2つ目は食料であったり、燃料のような飛行機で運べない必需品の買い出し。3つ目は情報収集である。今回は交通事故により結局3泊してしまったが、それは個人のブログ1)https://www.otakuhouse.org/entry/2019/05/16/183203 で説明している。

アンカレッジはアラスカ州最大の都市でありながら、小さくシンプルな街である。 そのため市街地に見どころは少ない分、買い出しに専念できる。 それでありながらREIがあり、Fred Meyerがあり、自転車屋があり、サイクリングの準備に必要な店は揃っている。

フレッドマイヤーと山

アラスカの人たちはみんな自然のそばで生活していて、それはアンカレッジのような都市部でも、程度の差はあっても同じだ。僕たちがやらなきゃいけない情報収集っていうのは、熊を避けるにはどうしたらいいかとか、ムースと熊はどっちが危険なのかとか、あそこのトレイルの雪は溶けているかとか、そんなことなんだけど。それを知ってる人を見つけるのは、ここアンカレッジでも難しくない。

REIにはすべてがある。たとえ手ぶらでアメリカに来ても、REIでアラスカントリップに必要なすべてを揃えることができるだろう。

情報収集には副次効果もある。知ってるのはそこにいる人間だから、それを引き出すには会話をするしかない。その過程がローカルへの理解を高めることにつながる。特に英語が下手でシャイな日本人にとって、具体的な話題があるというのは、気の利いたことを言わなくても済むという点で、会話する上で大きな助けになる。思うに旅行者としての腕の見せどころはローカルにどのくらい入り込めるかにあり、その意味でこのプロセスはとても重要である。

Seaward Highway

アンカレッジからはアラスカルート1、通称Seaward Highwayという、景観の優れたハイウェイ沿いに南下した。このときの僕にとって、このSeaward Highwayはただの移動手段だったし、むしろ長い舗装路に対して後ろ向きな気持ちもあった。しかし、ここがアメリカでもっとも景色の良い道路とされていることは後から分かった。特に日本人にとっては単に景観が良いだけでなく、見慣れない景色で大変楽しい。

アンカレッジ市街と郊外の境目くらいの場所。この坂を境界としてハッキリ景色が変わる。
ここはPortageという場所。3月なら氷河を走れるサイクリングルートがあるらしい。

Seward Highwayを走ると、特に土日に走るとアラスカの人の生活を肌で感じることができる。車で何かを運んでる人がとても多いのである。具体的にはカヌーやマウンテンバイクやATVだ。乗用車のヒッチメンバーによる牽引も珍しくなく、釣りが目的と思われるボートを牽引している人がたくさんいた。走っている車を見るだけで外遊びが好き、というステロタイプどおりのアラスカを感じた。街でやることがあまりない、というのも理由かもしれないけど。

魚を獲る人たち。

アラスカと言えばサーモンに代表されるシーフードだけれど、Seaward Highwayでも魚を獲って遊んでいる人がたくさんいた。ほとんどは先住民と思われる顔立ちの人で、捕まえてはその場で焚き火で焼いて食べていて、楽しそうだ。日本で魚獲りと言えば技術的なイメージがあるけど、ここでは勘でタモを動かしているとしか思えない所作で、みんなが魚を獲っていた。

SCOTTのマウンテンバイクに乗った健康な中年男性。突然現ると10マイル以上風よけとなってくれて、最後におすすめの場所を教えて去っていった。

ここではMTBでオンロードをサイクリングするのは、珍しい行為ではなかった。というより、実のところ休日の全舗装されたサイクリング・ロードを走った感触から言っても、ロードバイクに乗っていた人は少数派だ。アメリカの他の州にも言えることだけど、(自転車が走れる) シングルトラックがたくさんあって、日本よりMTBが人気あるというのはまず前提としてある。それに加えて、日本人に比べると自転車の車種に対しては弾力的な感覚があり、MTBで舗装路を走ることに違和感が無いのかもしれない。

最初のキャンプ

Seaward Highway沿いにはキャンプ場がたくさんあるが、今回の旅程では使えるものは少ない。なぜならアラスカのシーズンは5月中旬以降だからである。実はキャンプ場どころか公共交通機関も動いていない。キャンプ場を使いたいなら、使えるキャンプ場は事前に調べておくという動きが必要となるが、この日は初日でそんな考えはなく、行きたかったキャンプ場が雪で使えない問題にハマってしまった。とはいえアラスカはあらゆる場所がキャンプのようなものである。この日は道路脇にテントを張ることにした。

道路の脇に張ると言っても成り行きではなく、テントを張る場所はじっくり選んだ。海外のよくわからない場所でテントを張るのは珍しいことではないし、野宿するという選択肢それ自体には躊躇いはない。しかし具体的にどこにテントを張るかは迷ってしまう、というのが自分の中の繊細さのバランスである。

テントを張る時の心配ごとは国や地域によるけど、アラスカにおいては治安の心配はなく、この時の僕は野生動物を恐れていた。これは何となく怖い気がするくらいの話ではなく、ムースの糞がそこら中にあるとか、熊と思われる巨大な肉球の足跡がハッキリ残っているとか、狼の鳴き声が近くから聞こえてくるとか、そんな具体的なものが根拠になっている。

野生動物が怖いときに考えていることといえば、なるべく動物が嫌がりそうな道路のそばにテントを張りたいとか、一方で車から見えるところは嫌だなとか、そういうほとんど取り留めのないことだ。そこには合理的なものもおまじないレベルのものも色々混ざっていて、もはや正しさは不明である。でもこういう場所はセルラー圏外でインターネットも見れないし、手持ち無沙汰なので、こうやって時間が潰せるのは楽しいことのような気もする。そんなことを考えながらこの旅の最初のキャンプを過ごした。

References   [ + ]